》》》 試作 GC10 《《《

処女作になるであろう、model 【 GC10 】

シングル・アンプの最高峰をめざして、

57チャンプのジレンマ

試作第一号は、GC10( グランド・チャンプ 10W、を意味する )です.
シングル・アンプの代表は、何と言ってもフェンダー社のチャンプでしょう、単純にして明快、小型ならではの音の良さには定評があります。

ただ、この57チャンプ、単純なだけ使い辛い部分もあるのです、まず、フルテンにてオーバー・ドライブ、ディストーションをかけますと、音量はMAX一定となってしまいます、『ドラム君、ベース君、みんなこのアンプに音量合わせてね、』っというシーンも間々ある事です、個人で練習の場合でもディストーションをかけますと、傍迷惑の謗りは免れません。また、トーン・コントロールが無いため、音質のバランス調整も不可能です、これ等を解消すべく、チャンプの改良型は以前より製作したく思っておりました。

尚、これ等の項目は決して57チャンプを酷評するものではありません、魅力があるアンプだけに、こうあって欲しい、というのが正直な感想です。


2011、7、試作開始

では、57チャンプのグレード・アップ版、GC10の試作を開始いたしましょう。

GC10 回路図

回路図は上記の通りです、出力管にはチャンプが6V6シングル5Wに対して、GC10はEL34シングルにて10Wを確保します、電源部にはチャンプ同様整流管を起用します、元来シングル・アンプは出力に比例して歪みも増えて来ます、適度な内部抵抗を持った整流管は、出力管のクリッピング・ポイントをぼかしてくれます、したがって整流管の銘柄によって音質も微妙に変化いたします、実際には色々な整流管を試してみる事にいたしましょう。

プリ・アンプ部は12AX7/ECC83にて一段増幅した後にC・R型トーン・コントロール、ボリューム、に入ります、ノーマルの状態はこれで良いのですが、オーバー・ドライブ、ディストーションをかけるには、更に前置アンプを設け、過大入力にて真空管を歪ませます、この歪みはボリューム以前で発生しますので、音量はボリュームで調整出来る様になります、歪みの深さはオーバー・ドライブ・アンプのGAINにて調整します。ノーマル、オーバー・ドライブ、の切り替えは入力にてスイッチで選択します。

スピーカー


ジェンセン、スピーカー

ジェンセンの10インチ(25cm)スピーカーです
かって、フェンダーのプリンストンに搭載しておりました、
57チャンプが同じくジェンセンの8インチ(20cm)アルニコ・タイプを採用しておりますので、出力との兼ね合いから一クラス大きい物を用意しました。
このスピーカーは当時のスタイルを最も残しているモデルで、磁石はアルニコ製です。

ジェンセンのスピーカーには、磁石がアルニコ(アルミニウム、ニッケル、コバルトを含む合金)型とフェライト(希土類の焼結)型があります、同じスタイルであっても、値段はアルニコ型はフェライト型の2倍以上します。


音質、その肌合い

アルニコ型とフェライト型は、そのスペックは大きく変わりませんが、音質には微妙に現れます、
それは音質の肌合い、となって現れるのです、音質の肌合いは全ての音を支配しますから、57チャンプに習いアルニコ型を採用いたしました。

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とりあえず試作、
2011、9、

試作機です、トランス類は既製品を流用しております、試作機の傾向確認ですから目を瞑りましょう。



試作にあたり、新たに購入したパーツはありません、シャーシーはアルミ1.5mmの物ですが、これも以前製作したアンプの余り物を上手(強引)に応用したあります。

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2011、10、試作完了、音出しテスト、


簡単に測定し、いよいよ音だしです、スピーカーには、57チャンプ、ブルース・デラックス、ツイン・リバーブ、4×ビンテージ30(エンクロージャー)を使用しました、
自分で言うのも何ですが、『いやあ〜!いいですねえ・・・』、(自画自賛、我田引水)、、 もっと早く作っておけば!、と後悔しております。

基本的に出来は大変良いのですが、2〜3点、気になる所があります、まず残留ノイズのハムです、ボリュームを絞った状態では1mV強 で問題無いのですが、全開にしますと7mV程度出ております、通常使用する範囲では特に問題は無いのですが、静かな夜、一人練習するには気になります。次にオーバー・ドライブ、ディストーション回路にすると、ランダムに周波数ビブラートがかかった様に微妙に変調します、これはスーパーソニック、プロソニック、共に見られる現象です。後トーン・コントロールの中心周波数がやや低いので、高域コントロールの周波数を上げる事にします。

2011、10、手直し、最終調整

【 残留ノイズ対策 】 : 負帰還によるノイズ低減は期待出来ないのと、ハイ・ゲイン、アンプであるため、当初より懸念しておりました。従って電源のリップル、アース・ラインのループ、等は十分に手をうっておきました、しかし、ノイズ成分をオシロで見ると電源のハム成分の上に熱状乱雑音が重複しております、この程度はフェンダーのアンプと言えども当たり前に出ております、しかし、通常アンプの製作にはμV(1000μV=1mV)付近まで追い込んでいる者にとっては不本意な結果です。ここはハム撲滅のため電圧増幅の真空管を全て直流点火としました、お陰でボリューム全開であっても3mVを切る所まで押さえる事が出来ました。

【 オーバー・ドライブ回路の周波数ビブラート対策 】 : これはスーパーソニック、プロソニック、等の回路を見ると、一寸無理があるな?、と思っておりました。対策として電源のデカップリングの時定数を大きくする事で難なく解決です、変調はピタリと止まりました。

2011、10、最終結果

GC10 実装配線

試作としては、最終形です。V1、V2、は贅沢にも1/2しか使っておりません、左下の電解コンデンサーはヒーター直流点火のため、追加いたしました。

------------------------------ パワー・アンプ部 ------------------------------


最大出力は8Wです、当初フィクスド・バイアスにて10Wを見込んでおりましたが、セルフ・バイアスを採用したため、8Wに留まりました、その時の歪み率は10%程度です、ところでオシロで波形を観測いたしますと、とても10%歪んでいるとは思えません、若干上が広く、下が狭く見えます。

これが真空管シングル・アンプ最大の特徴です。トランジスター(半導体全般)の歪み率10%は見るに耐えない悲惨な結果となりますが、真空管シングル・アンプでは基本波と同調した高調波で歪むため、むしろ倍音を含んだ響きの層、っとなって聴こえます、公証出力が同じ10Wであっても、その音質に雲泥の差となるのは当然の結果でしょう。(負帰還=0)

下図に周波数特性を表示しておきます、出力管EL34のカップリング・コンデンサーは0.022μFとし、余分な低音かぶりをカットしてあります。



------------------------------ プリ・アンプ部 ------------------------------


トーン・コントロール、可変レベル、(パワー・アンプ部含む)

---------------------- オーバー・ドライブ・アンプ部 ------------------------


オーバー・ドライブ開始、
クリップが始まりました、カット・オフはまだ余裕があります、上下非対象の歪みです。
(V1、出力の波形)



更に深くオーバー・ドライブ、
クリップは深くなります、カット・オフも歪み始めます。



トーン・コントロール、パワー・アンプ、通過、
真空管らしい歪みはエフェクター(ダイオードで擬似歪み)では不可能です、

GAINとトーン・コントロールの併用で多彩な歪みが可能です、
ここまで来ると素のサイン波の面影はありません、
アンプと言うよりは、正に波形変調器です。


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試聴結果

予想を大きく上回りました、全く申し分御座いません。
当初は57チャンプのグレード・アップ版、としてスタートした試作機ではありましたが、全く別物の素晴らしいアンプの誕生です。

スピーカーは意外とツイン・リバーブの物と大変相性がよろしい、ビンテージ30では明らかにステージ用で、57チャンプのスピーカーではこのアンプが本来持っている素性の良さが生かせません、ツイン・リバーブのスピーカーはジェンセンの12インチ(30cm)が付いております、このアンプ、厚みのある中低音、マッシブな響きはかけがえの無いものです、ちなみにツイン・リバーブのアンプと比べますと、もう比較になりません、ツイン・リバーブのアンプはこのアンプの音と比べますと、品の無いガラクタに思えてしまいます、(ツイン・リバーブは質より量を目的としているため、いたしかたありません)。

特筆に価するのは、その音色です。オーバー・ドライブも、リバーブも接続せず、そのまま、ノーマルの音色が大変魅力的です、ストラトキャスターが、『へえ〜、このギター、こんなにいい音するんだ』、と改めて感心しました。また、オーバー・ドライブをオンにしますと、このアンプ、事態は豹変します、ワイルドで粘りのあるディストーション、言葉ではいい表せない起伏のコントラストは例がありません。

この様な素晴らしいアンプが製作出来たことに、大変満足しております、コンボ・スタイルのBOXに収納です。


このアンプ、最後に魂を与えるのは、出力トランスの自主開発です、長年温めていたアイデアの実現です。

2011 12月、製作完了

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